(1)公正さ…いざ、試合というときには正選手と補欠という区別が当然出てきますが、 将来への可能性を広げるという点では、対象とする子どもたちを公平に見る目を持たなくてはなりません。それは競技のときに差をつけないということではなく、どんな子どもにも自分はチームに、集団に、あるいは指導者に必要とされ、認められている存在なんだという実感を与えることが大切だということです。
(2)忍耐…子どもを指導する場合、自分の欲求の満足を得るためにも、早くその成果を確認したいという心理を抱きがちです。そのため、子どもの能力以上のものを求めたり、よい結果が得られないとイライラしたりすることがあります。子どもは表面的には変化がなくても、潜在的に学習する存在です。忍耐強く成長を見守る必要があります。
(3)情熱…指導者という社会的な役割に対して、常に情熱を持って取り組む必要があります。子どもは非言語的コミュニケーション(ノンバーパルコミュニケーション)で、指導者が何も口にしない場合でも、この人は熟心な指導者だとか、この人は少しやる気がないぞ、などと見抜いてしまいます。子どもを熱中させたかったらまず自分が熱中することが大切です。そして何よりも、情熱をそそいでやらなければ決して充実した指導者生活を送ることはできない、ということを知るべきです。
(4)研究心…指導者というのは非常に幅広い知識を必要とされます。教室やクラブの運営と管理の仕方、指導法(コーチング)、子どもの発育・発達、スポーツの歴史と現状など、子どもたちに直接教えないけれども、指導者としては是非勉強しておきたい事柄が数多くあります。また、子どもたちに直接指導する内容も、様々なバリエーションの中から、子どもたちを飽きさせないように組み立てなければなりません。ですから、常に情報を収集し蓄積するという作業が必要です。
(5)自信と協調性‥・指導者は、常に自分の指導法についての反省と見直しをしなければなりませんが、自分のやり方を確信を持って貫こうとする態度が必要です。自分のやり方に対して半信半疑では、子どもたちがやはり同じような雰囲気を持ってしまいます。自分がやろうとしていることを自信を持ってやりぬくことが重要です。しかし、それが独善的になってはいけないので、周囲との調和、特に指導者同士の横のつながりを大切にしなければなりません。自信を持ってやるが、指導のやり方が片寄らないように周囲と協調し、人の意見にも素直に耳を傾けるようにします。
A子どもに対する期待と暗示の効果を知る
指導者が、「この子は伸びる」という期待や信念を持ち続けて努力すると、そうでない場合に比べて子どもたちはよく伸びるといわれています。
これは、指導者やその周囲にいる人が、子どもたちの可能性を信じることによって生まれる効果で、ピグマリオン効果(Pygmalion
Effects)と呼ばれています。
ピグマリオンというのは、ギリシャ神話に出てくる彫刻家で、彼は、象牙で作った女性の像に恋心を抱き、自分の妻にしたいという執念でとうとうその像に生命を与えたといわれています。
ピグマリオン効果とはこのような神話から出てきたものではありません。アメリカの小学生を対象とした実験で、実際に期待の効果が確認され、それをこう呼んだのです。
また、指導者は偽薬効果というものを使って、子どもたちをその気にさせることができます。偽薬効果というのは、プラシーボ効果(Placebo
Effects)とも呼ばれていますが、医者がこれは特効薬だといって渡した薬がよく効いたので何かと聞くと、ただの小麦粉だった、というものです。一種の暗示の効果です。
信頼できる指導者の言葉に対しては、子どもたちはこうしたプラシーボ効果のような反応を示すものです。
指導者の子どもたちに対する影響力の大きさを知るとともに、こうした期待や暗示の効果をうまく利用するようにします。
B行動空間や時間の違いによって立場が異なることを知る
人間は様々な空間と時間の中に生活しています。そして、空間や時間の違いによって人間の役割や人間関係のルールも違ってきます。指導者は、その違いをよく把握しておかなければなりません。
図は、指導者がかかわる空間を示したものです。スポーツの指導者は基本的に三つの空間に属します。つまり、生活を営む現実の社会、スポーツをするための様々な行動が含まれるグランドの周辺の世界、そして試合や練習が行われるグランドの中の世界です。
現実の社会では、社会的常識や教養に従って行動しなければなりません。グランドの周辺では、そのスポーツ集団独自の規律やルールを作り出します。グランドの中では、そのスポーツで決められたルールに従った競争の原理が成立します。スポーツの指導者は、自分が今どの空間に属しているのかをしっかりわきまえて、子どもたちや社会と接触することが大切です。