B.少年期における勝利の追求の仕方
@大人は勝たせたいと思う
(1)日本と西ドイツの大人の声援の違い
体協の在外研修制度で西ドイツに派遣されていた松本青天氏〔潟}ツダ〕によると、スポーツの場に応援に来る西ドイツの大人たちは、勝ってほしいという願いは同じでも、日本とは少し違う声援の仕方をするそうです。
西ドイツの大人たちは、“ブンタバー(すばらしいぞ)”“ノッホアインマール(いいぞもう一度いけ)”“シェーン(いいプレーだ)”を連発するのだそうです。つまり、ほめまくるのです。
ところが、日本の少年スポーツではしばしばこんな言葉が開かれます。”しっかりしろ”“違うだろう”“なにやってんだ”。
勝ってほしいという願いは同じであっても、大人の声のかけ方によって、一方は失敗を恐れずのびのびとプレーしている様子が、もう一方は失敗を恐れて萎縮しながらプレーしている姿が目に浮かびます。
少年期には望ましい自己イメージを育ててやることが大切ですが、大人の声のかけ方で子どもの自己イメージはかなり違ってくるということを認識しなければなりません。
(2)勝ったときに子どもがいちばん喜ぶから勝たせたいと思う
大人、特に親は子どもに勝たせようと必死になって応援し、練習に通わせます。勝ったときに子どもがいちばん喜ぶから、子どもにしてはすこしやり過ぎだがそれを我慢させて、なんとか勝たせたいと願っているのです。
これは、子どものためという大義名分がありますが、結局大人の論理を子どもに押しつけているのです。勝利至上主義というのは、こんなところから芽生えてくるのです。
A勝ちたいと思う子どもを育てる
試合をしたら勝ちたいと思うのは、大人も子どもも同じです。また、勝たせてやりたいと親が願うのもあたりまえです。勝てばみんながうれしい。この上ない喜びを味わうこともあります。
だからといって、子どもに過剰な期待を寄せすぎると、親が喜ぶから頑張り、大人の期待に応えるために試合に勝とうとする傾向がでてきます。
少年期の子どもたちの指導では、勝ちたいと思う子どもを育てることが大切です。大人と同じように、最初はスポーツの勝敗にそれほどこだわりを見せない子どもでも、技術が進歩し、年齢が上がってくると競争意識が自然に生まれてきます。そういうタイミングをとらえて勝ちたいと思う子ども、負けず嫌いな子どもを育てるのです。
B大人になってからも伸びるのは負けず嫌いな子
指導者にとっては、勝ちにこだわる子ども、負けず嫌いな子どもを育てるのは重要なことです。子どもの中に自然にそうした心が育つのは、いっこうにかまわないのです。
思春期を過ぎて自立する年代になってから伸びるのは、こういう子どもたちです。自分の心の中に燃えるものを持っている子どもは内発的動機づけが高いので、指導者のちょっとしたアドバイスがあれば、ぐんぐん伸びていきます。
負けず嫌いという精神的要素は、親ゆずりつまり遺伝的な要素が強いといわれることがありますが、このような精神的要素は遺伝と環境の相互作用で形成されます。
ですから、子どものそうした要素を指導者がうまく引き出してやらなければなりません。
Cデットマール・クラマー氏の言葉
日本サッカ−育ての親といわれている西ドイツのデットマール・クラマー氏は、1968年のメキシコオリンピックで日本のサッカーが銅メダルを獲得した際の功労者の一人です。クラマー氏が来日して日本のサッカーを指導したときに、次のような有名な言葉を残してくれました。
“Der Sieg uber uns selbstist der hochste Sieg”
これはドイツ語ですが、意味は“自分自身との闘いに勝つこと、それが最も偉大な勝利である”というものです。
この言葉は、スポーツに携わる人間にとってはまさに至言といえます。スポーツの世界だけでなく、世の中の様々な営みにおいても光を放つ言葉です。
勝利とは何かということを考えるとき、また少年期における勝利の追求の仕方を考えるときに、最後にはここに行きつくのではないでしょうか。